東京高等裁判所 昭和26年(う)327号 判決
本件公訴事実の要旨は被告人は埼玉県児玉郡児玉町における借地借家人組合の主事であるところ昭和二四年二月四日午前十時頃から午後四時頃迄の間同町内の新町外八ケ所の道路上において借地借家人家賃値上反対街頭演説を行い、参集した聴衆に対し「中林益次郎は妾を囲い贅沢な生活をしているが、町会議員の現職にありながら家賃二十倍の値上げを要求した悪徳家主である」と公然事実を指摘し以て中林益次郎の名誉を毀損したものであると謂うにあり、これにつき原判決は右と同趣旨の事実を認定し、被告人の右所為を以て刑法第二三〇条第一項に該当するものと判定し、之に対し本件控訴趣意は、要するに本件事実は刑法第二三〇条の二第三項に該当し無罪たるべきものなりと主張するのである。
そこで審按するに、原判決引用の証拠によれば、被告人は、かねて右借地借家人組合主事であるところ右日時場所において家賃値上反対街頭演説を行い、その都度参集した聴衆に対し前記内容の演説を為したこと及び当時中林益次郎は児玉町々会議員として公務員であつたことを認められ、更に原審第二回公判調書中証人中林益次郎の供述記載、記録編綴の家賃地代算定基準と題する書面及び同児玉借地借家人組合長田中重蔵宛書面によれば、その頃右中林等は地主家主代表として前記借地借家人組合員に対し終戦前に比すれば一躍二十倍の家賃値上を要求しつつあつたことが認められ、なお原審第二回公判調書中証人新井源作の供述記載によれば、従前から右中林は某女を妾として囲つていた事実をも認められる。然らば被告人が右演説をして公然中林の身上に関する事実を摘示したとしても、その摘示事項は孰れも公務員たる同人に関する真実なりと謂うを相当とするから、所論の如く、刑法第二三〇条の二第三項第二三〇条第一項により之を罰すべきではないに拘らず、原判決において、単に公然事実摘示の点のみに着眼しその事実の真否をただすことなく、はやくも之に対し同法第二三〇条第一項を適用の上有罪として処断したのは法令の適用を誤つて判決に影響を及ぼしたこと明らかであり、論旨は理由がある。